※ C82で頒布する作品の見本(文章の前半) ・笠松先輩視点 ※

不思議な言葉を聞いた。
そんな事を言うなんて思わなかったから、不思議だと思ったのかもしれない。

「黄瀬のやつ、変わったな」

練習終了後の片付けの際、隣に来た森山が俺に声をかけてきた。

「ん?」
「いや、雰囲気が…さ」
「ん?」
「…いや、上手くいえないんだけどさ、ただのお調子者じゃないって言うか」
「…そうだな…」

俺は長身の色男に視線を移す。
そこには監督から叱咤されている黄瀬涼太の姿があった。
今日の練習での集中力のなさを指摘されているようだ。

「監督、あれだけキセキの世代が云々って言ってたくせに」
「あぁ、ゲンキンだな」

森山の呆れ声に俺は苦笑しながら返事した。

少し前に、俺たち海常高校は、新設校である誠凛高校に負けた。
練習試合だった…と言う事は言い訳にはならない。
負けは負けだ。
学校、そしてバスケ部が創設されて二年目何て、冗談じゃないレベルの話だ。
インターハイ、ウインターカップと言った全国レベルの大会出場常連校であるウチが新参者に負けたのだ。
しかも、普通に負けたわけじゃない。
全中三連覇と言う偉業をなしたキセキの世代のメンバーの一人、黄瀬涼太を獲得し戦力が上がっている状態で負けた。
どんな強者であろうと負けることはあると俺は思っている。
だから、別段負けても…悔しいがそれはそれでそう言う「時」なのだろう、と。
どんなに努力しても報われないことがあるのは、勝ち負けがある世界では当たり前の事だ。

監督の声が大きくなる。
多分、黄瀬が余計な事を言ったんだろう。
あいつは何か一つ言葉が多い。
悪気があって言っているわけじゃないのは分かる。
計算し尽くして言っているような気がする時も…ある。
だが大抵は思ったことを口にしているだけ、と言う事もあるから中々読み取るのが難しい。

(あいつの本音は、どこにあるんだ?)

俺は何時も悩んでいる。

「ホント。あれじゃ黄瀬も可愛そうだわ」

森山は呆れ声から少し笑った表情で、その場を楽しんでいるように見えた。

「お、後輩思いだな」
「からかうなよ」
「わりぃな。…でも…変わったな。多分、いい方向にだ」

もう一度、俺は黄瀬の横顔を見る。

(続きは頒布される本でご確認ください。)
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