外套に明かりがともる夜。
寒さから逃げるように人々は目的地へ小走り。

今日俺はずっと屋内に居て、時間は時計で知ることが出来なかった。
撮影が終わって外に出ると、白い息が見えた。
ゆっくりある出して、駅に向かった。

空を見上げる。
急に降ってきた雪が俺の瞳に写る。

「雪…スか」

ちらちらゆらゆら、氷の小さな結晶が頬に落ちてくる。

「綺麗っスね…」

俺は呟く。
雪を見ていると懐かしさが浮かび上がってくる。
胸の奥に秘めてずっと隠していたものが思い出と重なって出てくる。

あの日も雪が降り出して、俺の隣に居た貴方は見上げて「綺麗だな」と呟いていた。
閉じた瞼と睫に結晶が落ちて、俺は雪になりたいと思った。
そうやって、静かに貴方に触れて、貴方に降り注いで、貴方に積もっていきたかった。

一年はあっという間だった。
充実はしていたけれど、余計に過ぎる速さを実感していた。
近くて遠い存在。
一つ進めば、又一つ進んで、下手すれば二つ三つと進んで。
俺との距離は広がっていく。
追いつきたくて、貴方の横に立てるように必死に走った。
時々見せる、貴方の世界が俺を作り上げていく素材だった。

お別れする時笑いながら泣いた理由は、貴方の居ない時間をその時だけでも忘れたかったから。

光陰矢のごとし。
貴方が傍に居ない時間が当たり前になって、その分想いは大きくなっていく。

我侭を言えば、もっと傍にいたかった。
どこに居てもつながっていると貴方が言った空は広すぎて、俺は貴方のいる方向さえも見失う。

貴方は貴方であって欲しい。
幸せであって欲しい。
変わらないままで、信じた道を、あの時俺が見つめ続けていた眩しい姿のままで歩んで欲しい。

伸ばしても届かない手を引っ込めて、大人ぶって聖人君主な面でこの街を、この道を歩いて。
俺は今でも、自分の中にあった恋心を、もてあまし続けている。
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